内頚静脈の視診

メーセージ;卒業直後より内頚静脈を視診することを習慣化すれば、その視診により静脈圧と右房の圧波形を類推できる.

視診所見;本例は右心不全を伴ったファロー氏四徴症の55歳の男性である.座位で内頚静脈の怒張が見られる(細い矢印が外頚静脈、太い矢印が内頚静脈).

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内頚静脈の視診は身体所見の取り方の一部であり、それにより静脈圧と右心房の波形を知ることができる.しかし、残念ながら習得には一定のトレーニング期間が必要であり、一目ではわからない.方法として、検者は患者の右側に位置し、右内頚静脈の先端がみえるまでベッドを起こし、心音にてS1とS2を同定しながら内頚静脈を観察する。S1に一致すればa波で、S2に一致すればv波と判定される.

病態生理

立位で内頚静脈の先端が見えれば(静脈の怒張がある)、静脈圧が上昇していると判断できる.これはうっ血性心不全や、内頚静脈-右房間の狭窄病変(上大静脈症候群やDeBakeyI型の解離性動脈瘤)でみられる.喘息で呼気が延長すれば、胸腔内圧が上昇し内頚静脈が怒張することがあるがこのような場合は静脈圧は判定できない.逆に臥位にて内頸静脈が同定できなければ、消化管出血等の血管内脱水により静脈圧が低下している可能性がある.ただし、肥満体の人では内頚静脈の視診が不可能な症例もある.

内頚静脈から右心房までの間に狭窄が無ければ、内頚静脈波形は右心房の波形と同様である.正常ではa波のみが観察される.三尖弁閉鎖不全症になるとS2に一致したCV波がみられ、貧血や右室の容量負荷では正常のv波が強調され2峰性に見えることがある.また、肺塞栓などの急性の右室負荷疾患では大きなa波が観察される.

患者マネージメント

静脈圧上昇は心不全の身体所見の一つとして、下肺野のクラックル、S3ギャロップとともに重要な所見である.心不全が改善すれば、静脈圧は下降し、心不全の改善度のモニターとして用いる.逆に、血圧低下の時、首が太くない人が臥位で内頚静脈がみえなければ、消化管出血等の血管内脱水を考慮すべきである.CV波の存在は三尖弁閉鎖不全症の診断に必要不可欠な所見である。

JIMノート;内頚静脈波;上向きの波として右房収縮のa波、右室収縮によるv波があり、下向きの波としてx谷やy谷がある.CV波は収縮早期より始まりS2をピークにする上向きの波であり、y谷も深いため大きな波として認識できる.